
荒野の砂塵が舞う中、悟ったようにアテナが口を開く。
アテナ「どうやらこの力がセフィラであることはベリトが証明してくれたようね、話はだいたいわかりました。で、話を戻すけど天界に今帰らないほうが良いということだけど、天界に戻らずにどうしろと言うの?」
カミーロ「ああ、戻らないほうがいいだろうな、天界にも継承者がいないとも限らないからな」
ライガ「だったらおれにいい考えがあるぜ」
アテナ「考え?」
ライガ「その継承呪法、おれに譲らないか?」
アテナ「えっ!?」
シンデレラ「なに!?」
ライガ「その力を持っていると今後も狙われるぜ、だったらおれが継承してやるよ。あんたは狙われなくなるし、天界にも帰れる。どうだ、いい条件だろう?」
アテナ「手放せば安全ということね。せっかくだけどお断ります。最初はなんだか不気味な感じもしたけど――最近ではなぜか継承したことに意味がある気がして――」
ライガ「ちぇっ、そう言うと予想はしてたけどな」
カミーロ「ではその力はこのまま持っていたいということで間違いないな?」
アテナ「そうね、今のところ――」
カミーロ「そういうことなら話は早い、君たちは他の継承者がやってきた時に自分で身を守ることができるようにならなければならない。先ほどのベリトのようなやつが来たとしたら、現在では難しいだろう、装備品にも問題がある」
アテナ「残念ながらそうでしょうね、でもエデンに留まって何ができるというの?」
カミーロ「そうだ、そこで俺から提案がある」
アテナ「提案?」
カミーロ「単刀直入に言おう、俺は君の能力を調べたい。何世紀も表に現れなかった継承呪法第零法は文献すら残っていない、俺が見たことのない世界で最後の魔法だろう。その力を調べればまだよくわかっていない継承呪法の全体像も見えてくるかと思う。もちろん、ただでとは言わん。君たちがここにいる間、あるゆる種類の武器の使い方、魔法を俺が教えよう」
白雪姫「あらゆる種類の武器と魔法!?」
アテナ「なるほど、交換条件というわけね」
カミーロ「そうだ、ついでに言うと、ベリトのようなやつが来る可能性もある、だから俺たちが君たちの用心棒として戦おう」
ライガ(俺たち、ってやっぱ俺も入ってるのか――)
アテナ「即答するわけにはいかないけど――みんなはどう思う?」
アリス「私はいいと思うなーなんか楽しそうだし」
コッペリア「右に同じ」
赤ずきん「このあたりは何かおいしいものはありますのですか?」
ライガ「果物がいろいろとれるぜ」
カミーロ「あとは野生の七面鳥やイノシシが――」
赤ずきん「私はここに留まることに賛成なのです!!」
アテナ(決断が早いな――)
オーロラ「私と白雪姫からカミーロさんに質問があります」
カミーロ「ああ、何をききたい?」
白雪姫「さきほど武器を本から取り出したものは圧縮空間を使った界術とお見受けしますが、カミーロさんは剣でいうといくつくらい収納可能ですか?」
カミーロ「何本入るか試したことはないのだが――今収納しているのは400ほどだ」
オーロラ「400!? まかさそんな数を――」
白雪姫「オーロラ、確かあなたの友達で界術師がいたと思うけど400本の剣なんて入ると思う?」
オーロラ「いえ、無理ですわね。圧縮空間はその維持に膨大な魔法力と魔力量が必要なはず、上級者で10、一流と言われている界術師でも20本の剣が限度だと思いますわ」
白雪姫「わかった――では――」
白雪姫とオーロラは何やら二人で話しているようだ。
オーロラ「私と白雪姫さんはほぼ同じ意見だと思ってもらってかまいませんわ」
白雪姫「私たちはここに留まることに意義があると思います、魔法だけを考慮しても今までに見たことのない規模や高レベルのものを使用されています。ここで学ぶことに時間をかけることに値するかと」
アテナ「なるほど、シンデレラはどう?」
シンデレラ「カミーロ殿に伺いたい、さきほどのポセイドンの槍と同等の威力を持つ武装を他にもお持ちか?」
カミーロ「あのレベルならば他にもある、あれ以上のものもある」
シンデレラ「わかりました、ではアテナ様、結論から申し上げますと、あちらのお二人は信用に値するかどうか定かではありませんが、信用せざるを得ないかと思います」
アテナ「というと?」
シンデレラ「ポセイドンの槍と同等ほどの武装があれば、おそらくそれを使って私たち全員を葬り去ることは容易いでしょう。それを行わず、今こうして私たちが無事でいることから、ひとまず信用せざるを得ないというわけです」
アテナ「なるほど、確かにそうね――、では私からも一つ質問を。あなたは私の力を知りたいと言っていたけど、この力の使い方はだいたいわかった気がする、これ以上何を調べようというの?」
カミーロ「まず、現在の力の使い方が正しい使い方かどうかが怪しい。考えても見てくれ、何世紀も姿を現さなかった継承呪法第零法だが、今のままでは飛び道具の回避くらいにしか役に立たない。これが本当の継承呪法の姿だと思うか?」
アテナ(確かにその通りだ――今のままでは実戦では飛び道具の回避くらいにしか使えない、もちろん近接戦闘では役に立たない――)
カミーロ「それと、突き止められるかどうか断言はできんが、誰がなんのために君にその力を継承させたのかを知りたくないか?」
アテナ「それもこの力を調べていく過程でわかるかもしれない、ということね」
カミーロ「そういうことだ」
アテナ「シンデレラ」
シンデレラ「はい」
アテナ「あまり長居はできないけど――少しの間ここに留まろうと思う」
シンデレラ「承知しました、アテナ様のご意向とあらば」
アテナ「ただ、天界に報告は必要だと思うので真似き猫帝に伝令を頼もうと思うが――真似き猫帝はどこ?
白雪姫「さっきまで寝ていましたが――あ、来ました」
アテナ「真似き猫帝、私たちは少しの間ここに留まろうと思うので、天界に報告しに行ってもらえる?」
真似き猫帝「にゃーご!!」
白雪姫が真似き猫帝と何やら話をしている。
ライガ「猫と会話ができるのか!?」
コッペリア「白雪姫は動物と会話ができる」
アテナ「アリス、移送の扉で真似き猫帝を送ってほしい。どのあたりまで移動できる?」
アリス「けっこう距離があったので、おそらくエデンと天界の中間くらいかな」
アテナ「真似き猫帝であれば充分でしょう、聴覚も優れているし足も速いから、そこから天界までなら安全にたどり着けるはず」
アリス「ではちょっと送りにいってきます!」
カミーロ「では移動しながら話そうか、いくつか聞いておきたいことがある」
エデンの荒野を歩くことはとても新鮮だった。見たことのない景色と感じたことのない風、全てが新しく、異世界のような光景が続いていた。これを旅という表現をして良いのかわからないけど、次々と新しいものが目に飛び込んでくるのだった。
カミーロ「なるほど、ではその力に気づいたのはおよそ1年ほど前というのだな」
アテナ「ええ、でも使えることに気づいたのが1年ほど前なのでいつどこで継承されたかは――」
赤ずきん「継承呪法って継承者が死ぬとどうなるのです?」
オーロラ「確か、空に放たれて、継承する能力のある次の継承者の元へ流れ星のように落ちていくはずですわね」
赤ずきん「では前の継承者が死んで、それが空に放たれてアテナ様の元へ降ってきたという可能性はありますのですか?」
カミーロ「いや、それはないだろう。前継承者の死亡により、次の継承者を求めて確かに空から降りてくるが、ものすごい閃光と轟音を伴うはず。人口の多い天界でそれを誰も見ていないということは考えにくいし、そもそもアテナ本人がそれに気づかないはずもないだろう」
アテナ「ではもともと天界に前継承者がいて、それを私に継承させたという可能性が高いということ?」
カミーロ「いまのところそれしか考えられないだろうな」
白雪姫「それにしても、この荒野はなかなか暑いですね――」
オーロラ「ずいぶん歩いてきていますしね」
アテナ「ではこれで――Ventus Flos!」
呪文を唱えると緑色の球体が現れ、アテナ達の後を追うようについてくる。
アリス「あ、風が来て涼しい!」
赤ずきん「アテナ様、すごいのです!」
アテナ「まさかこれが役に立つ日が来るとはね」
ライガ「どうしたんだ、兄貴、そんなに驚いた顔して」
カミーロ「どういうことだ――また俺が知らない魔法だと!? アテナ、その魔法どこで覚えた!?」
アテナ「ああ、これ? 私が作ったの」
カミーロ「作っただと!? では君のオリジナルなのか!?」
アテナ「ええ、そうね。お姉さまたちには役に立たない魔法って言われたけどね」
ライガ「兄貴、何をそんなに驚いてるんだ、あんなのただ風が出る球だろう。特に役に立たないぜ」
カミーロ「役に立つ立たないの話をしているわけじゃない。ライガ、お前は一度でも自分のオリジナルの魔法を作ったことがあるか?」
ライガ「そう言われれば一度もないな」
カミーロ「魔法は先人から受け継がれてきた、いわば技術の結晶、積み重ねの歴史だ。先人たちの血のにじむような努力と研鑽があってこそ、現在の魔法の数々は確立しているのだ。それをあっさりとオリジナルを作ってしまうとは――」
アテナ「役に立たないような魔法ならいっぱい作っただけどね――」
カミーロ「他にもオリジナルがあるのか!?」
アテナ「あはは――なんか言うのも恥ずかしいようなものばかりだけど、花の色を変える魔法とか、古い柱がきれいになる魔法とか、料理の味がかわる魔法とか――」
カミーロ「それを全て自分で!?」
アテナ「お姉さまたちからは全く実戦では役に立たないおもちゃと言われたけどね」
赤ずきん「アテナ様の魔法はいろんな人を助けてるのです!」
アテナ「私も実戦では使えないっていうのはわかってるんだけどね。子供の頃からお姉さまたちほど魔法力がなかったけど、私は昔から魔法を使って誰かに喜んでもらうのが好きだった、だからいろいろと試しているうちにいくつかの魔法を生み出せた。本当に役に立つかか、わからないようなものばかりだけどね――」
カミーロ「…………」
アテナ(なに、この悪寒のような感覚は――ベリトの時と同じような――)
アテナ「はっ!」
シンデレラ「どうされました!?」
アテナ「継承者が近くにいる!」
カミーロ「なに! どこだ!?」
アテナ「私たちの背後から――しかも3人!!!!」
ライガ「3人同時だと!?」
カミーロ(まさか、継承者3人がつるんでアテナの継承呪法を奪いに来たのか――!?)
コッペリア「どうする、逃げる? 戦う?」
カミーロ(3人同時というのはかなり危険だな――)
?????「やあやあ、君が継承者だね。もっと重鎮みたいなやつかと思ったら意外に若いな」
現れたのは一人の青年のような風貌、天使か悪魔なのかも判別不能だ。
?????「その継承呪法、僕に譲る気はないかい?」
アテナ「断る、残念だけどまだ手放すわけにはいかないの」
カミーロ「アテナ、あと2人はどこだ?」
アテナ「わからない――すぐ近くにいるはずなんだけど――」
?????「じゃあ君を殺して奪うしか、ないね!」
カミーロ「危ない!!!」
アテナ「あっ!」
本当に一瞬だった、カミーロに突き飛ばされなければ私は串刺しにされていただろう。男の指が伸びてきたのだった、いや、指というより、あれは針だ。
アテナ「あれは!? 指の一部が金属のようになって針みたいに伸びてきた!?」
白雪姫「体の材質を他の物質に置き換える継承呪法です!」
ライガ「兄貴、やっちまうか!」
カミーロ「いや待て! ここはいったん退くぞ」
ライガ「なんだって!?」
カミーロ「残り二人の継承者の姿が見えない、戦闘中に挟まれたりしたら面倒なことになる。ここはいったん退いて残り二人の姿を確認するぞ」
ライガ「おーけー」
カミーロ「よし、みんな走れ!!」
?????「ああ、待ってくれよー」
白雪姫「はぁはぁ、走れっていっても逃げ切れるでしょうか――」
赤ずきん「とりあえず走りますです――」
ふと後ろを振り返ると――あの男はやけに遅い、どんどん差が開いていく。
カミーロ(なんだあいつ、やけに遅いな――)
シンデレラ「アテナ様、とりあえず差は開いています、このペースであれば逃げ切れそうです」
カミーロ「よし、いったん止まるぞ。アテナ、残り2人の居場所はどのあたりかわかるか?」
アテナ「はっきりとはわからない――やっぱり私たちの背後から3人が来ているはず――!」
カミーロ(なぜだ――なぜあと2人の姿が見えない――)
アリス「まさか地下に潜ってるとかじゃないでしょうね」
コッペリア「地上を走るのと同じようなスピードで地下を移動するのは難しい」
オーロラ「コッペリア、悪魔の気配はします?」
コッペリア「このあたりにはいない。感知できないのかもしれないけど」
?????「おいおい待ってくれよー、継承呪法を渡してくれれば君たちの命は助けてあげようじゃないか」
ライガ「悪党がよくいうセリフだぜ」
カミーロ「仕方ない、もう一回走るぞ!!」
赤ずきん「今日はずっと走りっぱなしなのですー」
再び男のと差が開いていく、男も走っているが大した速度は出ないようだ。
カミーロ(なぜあいつはあんなに遅いんだ――まるで魔力が尽きたかのような――)
シンデレラ「アテナ様、残り二人の場所はわかりそうですか!?」
アテナ「いや、背後から残り二人も来ているはずなんだけど――」
アテナ(まだうまく継承者の力を感知できていないの――? でも3人いるのは確かなはずなのに!)
カミーロ(ここはアテナの力に頼るほかはないな――)
カミーロ「よし、みんないったん止まってくれ。アテナ、継承者の方向はわかるんだな?」
アテナ「ええ、方向は間違いなく背後から3人来ているはず――! あとは距離がわかれば――」
カミーロ「まだ継承者の感覚になれていないのかもしれない、やつの方向を向け」
追ってくるだろう男の方向に、アテナは体を向けた。
カミーロ「ベリトの時の感覚を思い出せ、距離が異なれば感じる感覚にも強弱があるはずだ」
アテナ(そう――方角は合っているはず――距離がわかればどのあたりにいるのかも把握できるはず。思い出すんだ、ベリトの時の悪寒のような感覚を――)
目を閉じて自分の体が向いている方向に集中する、感覚で判断するんだ。
?????「はぁはぁ、いやーみんな早いねー」
白雪姫「来た!」
アテナ(一人目がきた――あと二人の距離は――やっぱり距離は近いはず、遠い距離じゃない――)
目を開けるとさきほどの男が走ってきている姿が見えた。
アテナ(距離は近い――でも一人しか見えないということは――)
アテナ「そうか! そういうことね!!」
白雪姫「何かわかったのですか!?」
アテナ「3つよ! この男が一人で3つの継承呪法を持っている!!」
ライガ「一人で3つだと!?」
カミーロ「なるほどな、それで合点がいった。走るのが遅かったのは全魔力を継承呪法の維持に使っているため、錬身化に魔力がまわらないのだろう。だから魔力が尽きた時のような体の動きだったのだな」
ライガ「さて、対象がはっきりしたが戦うのか?」
カミーロ(相手は継承呪法3つを持っている――戦って勝てるような相手なのか――)
コッペリア「アテナ様、悪魔が接近しています」
アテナ「え、こんな時に――!?」
カミーロ(まさか――また継承者か!?)
コッペリア「かなりの速度で接近しています――来ます」
ライガ「なんだってこのタイミングで!」
警戒する9人を横目に、現れた悪魔は颯爽と走り抜け、男に向かっていった。荒野の静かな空気を切り裂いていく突風のように。
ローブの悪魔「やっと見つけたぞ」
?????「また君か、あいにく君には用はないんだけどなー」
ローブの悪魔「お前がなくても私にはある、その継承呪法を返せ」
?????「何を言ってるんだい、これはおれが君の妹から譲り受けた力なんだよ」
ローブの悪魔「譲り受けただと!? 強引に奪っておいてよくも!! 地獄へ戻してやる!」
ローブを着た悪魔は持っている剣をかまえながらその男に斬りかかる。
?????「おっと、危ない危ない、乱暴だなー君は」
ローブの悪魔「お前を倒して妹の継承呪法を取り戻す!」
アテナ(悪魔はあの男をねらってきたようね――)
カミーロ「チャンスだな、みんな走れ!」
ライガ「いいのか兄貴、あの男を倒して継承呪法を手に入れるチャンスじゃないのか!?」
カミーロ「そもそもあの男を倒せるかどうかがわからん、今の状況ではエデンの中央部までたどり着くことを優先したい」
アテナ(一人で継承呪法3つとは――そんなこともできるのね――)
紆余曲折を経て、アテナ一行はようやくエデン中央部にたどり着いたのだった。
カミーロ「さて、到着して早速で悪いがこのあたりに継承者または悪魔がいるか確認しておきたい。アテナ、このあたりに継承者の存在は感じるか?」
再び目を閉じて気を集中される、空気を肌で感じるように継承者の発する魔力を感じ取る。
アテナ「比較的遠い距離だけど、東に2体、お互いにけっこう離れた場所にいるみたい」
シンデレラ「2体で離れているっていうことはさきほどの男ではないようですね」
カミーロ「わかった、あと君はコッペリアだな?」
コッペリア「うん」
カミーロ「君は悪魔の場所が感知できるな? このあたりに悪魔はいるか?」
コッペリアはしばらく沈黙した後、
コッペリア「このあたりだと西に4体だけ、みんなバラバラに位置してる」
カミーロ「東の継承者は悪魔ではないのか?」
コッペリア「それはわからない、ベリトの時も感知できなかったから」
カミーロ「ということはひとまず、西に悪魔4体、東に悪魔かどうか不明の継承者2体、ということだな。状況としては悪くないな――」
アテナ「何が悪くないの?」
カミーロ「ライガ、俺はちょっと出かけてくる、後は頼んだぞ。夜までには戻る」
ライガ「おーけー、気を付けていってきてくれ」
赤ずきん「ライガさんに聞きたいことがあるのです」
ライガ「おお、なんだ?」
赤ずきん「ライガさんの魔法で武器を複製できるのですか!?」
ライガ「ああ、あれは幻想鋳造といって、武器をそっくりそのまま複製するんだ」
白雪姫「本当ですか!? ではこの金の指輪を複製してください!」
オーロラ「ではわたくしはこのネックレスを」
ライガ「いや、俺の魔法はな――」
シンデレラ「この鎧はそろそろ傷んできている、鎧も複製してもらえるだろうか?」
ライガ「いやいやちょっと待った! 幻想鋳造はな、俺はまだ鉄しか複製できないんだ。しかも、時間が経つと消えちまうんだぜ」
白雪姫「それじゃああまり役に立たないじゃないですか」
アリス「ぜんぜーん使えないじゃない!」
赤ずきん「詐欺師みたいな技なのです!」
コッペリア「幻滅」
ライガ(使えないとか役に立たないとか言われる俺の必殺技とはいったい……)
アテナ「それよりみんな、長旅だったから今のうちに休んでおいて。装備品も少し更新しておきたいところだけど――」
ライガ「店なら町のほうにあるぜ」
白雪姫「アテナ様、亜麻が生えていましたのであとで裁縫作業をしますね」
アテナ「ありがとう、助かるよ。ではしばらくの間は休息としよう」
ライガ「兄貴のやつ、いったいどこ行ったんだ!? まさか天使の世話を俺に押し付けてどこか逃げたんじゃないだろうな――」
ライガ(ん? 誰か走ってきたな)
アリス「はぁはぁはぁ――」
ライガ「なんだお前たち、そんなに走って――」
赤ずきん「ライガさんもこれ食べますのですか?」
ライガ「おぉ、ドーナツか、もらうぜ」
アリス「おいしいでしょー」
ライガ「俺に差し入れとは気が利くじゃないか、お前らが買ってきたのか?」
赤ずきん「それはシンデレラが持っていたおやつなのです」
ライガ「はい?」
アリス「シンデレラったら、私たちが欲しいって言ってもくれないんだもん、こっそり持ってきちゃった!」
ライガ「おいおい、お前たち盗んできたのかよ……」
赤ずきん「これは心外な! こっそり頂いてきただけなのです!」
ライガ(それを盗んできたっていうんだろう――)
シンデレラ「ライガ殿ー!!!」
アリス「げっ、シンデレラ!」
ライガ「あーあ、お前ら怒られるぞ」
シンデレラ「ライガ殿、さきほど私の荷物からドーナツが消えて、ってまさかそのドーナツは!?」
ライガ「いやいや勘違いするなよ、俺はこいつらに無理やりドーナツを押し付けられただけで――」
シンデレラ「ライガ殿よ、こいつらとは誰のことで?」
ライガ「いやいやこいつら二人だよ」
後ろを振り返ると既にそこにはアリスと赤ずきんの姿はなかった。
ライガ(あいつら! 俺が話している間にアリスの移送の扉で逃げやがったな!!)
シンデレラ「まさかドーナツ泥棒はあなただったとは! 盗みを働くとは不届き千万!!」
ライガ「いや俺じゃない! あいつらが持ってきたんだ!」
シンデレラ「誰もいないのに他人のせいにするとは! 私が天界にかわって成敗してくれよう! とりゃあ!!!」
ライガ「ぶへぇ!!!!!!」
アテナ「ん?」
白雪姫「アテナ様、どうしました?」
アテナ「いや、今ブタの鳴き声がしたような気がしたのだけど」
白雪姫「このあたりは野生の野ブタも多いようです、誰かが狩りでブタでも捕まえたのでしょう」
アテナ「そう――ブタ――ね。このあたりのブタはすごい鳴き方をするようね――」
日も傾き夕方に差し掛かった頃、慌てて走り込んできたのはシンデレラだった。
シンデレラ「アテナ様、大変です!」
アテナ「どうしたの?」
シンデレラ「とにかく外に来てください!」
外に出てみたものは、このあたり一帯が半球状の光で覆われた光景だった。半透明のドーム状のそれは光り輝く氷の壁のようだ。
アテナ「これはいったい――このあたり一帯が覆われているの?」
白雪姫「おそらく結界かと思われますが――今、結界に詳しいオーロラが見に行っています」
赤ずきん「大変きれいなのです!」
シンデレラ「そんな悠長なこと言ってる場合じゃないぞ、あ、オーロラが帰ってきました」
アテナ「オーロラ、ご苦労様、様子はどうだった?」
オーロラ「端が見えないほど広い範囲が覆われていますわ。しかも、あれは結界ではありません」
アテナ「結界じゃない?」
オーロラ「あれは絶界と言います、結界の上位互換魔法ですわね」
白雪姫「絶界って、端が見えないほどの広範囲を!?」
オーロラ「ええ、信じられないほどの広範囲が絶界で覆われていて、入ることも出ることもできない状況になっていますわ」
シンデレラ「ということは、まさかアテナ様の力を狙っている物が絶界を張ってアテナ様を閉じ込めたのでは!?」
オーロラ「その可能性はありますわね、絶界を破ることはそう簡単にはできません」
アリス「外からは入ってこれないけど、中にいる私たちも完全に閉じ込められちゃったってことね」
白雪姫(でもこの広範囲に絶界を張ることなんてできるの――?)
ライガ「お、兄貴が帰ってきたようだぜ」
ライガ「兄貴たいへんだ、このあたり一帯が絶界に覆われて――」
シンデレラ「アテナ様の力をねらう継承者たちの仕業かもしれません! アテナ様をここに閉じ込めて継承呪法を奪おうと画策しているのかと」
カミーロ「どうかな、東の継承者はその後動きはないのだろう? アテナの力を狙っているのではればすでにここにやってきているのでは?」
シンデレラ「そういわれると確かに」
カミーロ「西の悪魔も同様だ、最初からこのあたりにいたのだから、何か別の目的があってエデンに来ている可能性が高い。それに――――」
アテナ「それに?」
カミーロ「絶界を張ったのは俺だ」
シンデレラ「はい?」
アテナ「………………」
アリス「ちょっと何やってんのよ!! あんたのおかげで帰れなくなっちゃったじゃない!!」
カミーロ「何を言っている、しばらくここに滞在するのだろう、絶界は永久的な代物ではない。時がくればいずれ消える」
ライガ「まったく、強引だな、兄貴は」
カミーロ「俺が絶界を急いだ理由はただ一つ、この前の継承呪法を3つ持った男やベリトのようなやつの侵入を防ぐためだ。いずれは戦わなければならない相手だろうが、今はまだ君たちが弱すぎる」
アテナ「絶界が消えるまでに少しでも強くなれってことね」
カミーロ「そうだ、ついでに言えば東にいる継承者から継承呪法を奪って力の底上げをしておきたい」
アテナ(奪うって言ってもね、同志だったら困るんだけど――)
カミーロ「君たちも同様だ、君たちはアテナを守るための六賢使なんだろう? だったら少しでも強くなって絶界内の悪魔くらい全て倒してみせろ」
シンデレラ「望むところだ」
カミーロ「では食事にしよう、もう夜になってしまったな」
赤ずきん「待ってましたのです!」
アリス「やったーごはん!」
ライガ「なあ、兄貴」
カミーロ「どうした?」
ライガ「天使って普通にめし食うんだな」
カミーロ「お前、そんなことも知らなかったのか。半霊体なんだから当たり前だろう、天使も悪魔も死ぬと消えるが、それ以外は俺たちと同じだ」
ライガ(そういえば昼間ドーナツ食ってたな)
白雪姫「ねえ、オーロラ、あの大きさの絶界なんて見たことある?」
オーロラ「ないですわね、一流の結界師でも不可能でしょうね。神レベルの魔力が必要かもですわ」
白雪姫「あの人、敵意はないみたいだけど、とてつもない力を持っているのでは? 注意しておきましょう」
オーロラ「ちょっと油断ならないですわね」
カミーロ「さて、食べ終わってばかりで申し訳ないが夜のうちに確認しておきたいことがある」
アテナ「西の悪魔と東の継承者のこと?」
カミーロ「その通りだ、今のところ襲ってくる様子はないようだが、姿だけは確認しておきたい。どんなやつかわかれば襲ってきた時の対処法を考えることができる。六賢使の能力はアテナが一番把握してるだろう、西と東、そしてここの防衛も考えてメンバーを割り振ってもらえるか?」
アテナ「なるほど、では西の悪魔はアリスとコッペリア、コッペリアがいれば悪魔の居場所を感知できるし、アリスがいればいざという時に移送の扉で逃げられるからね」
アリス「おー!」
コッペリア「わかった」
アテナ「東は継承者がいるから、私、近接戦闘の得意な赤ずきん、回復のできる白雪姫、以上3人で行こうと思う」
白雪姫「承知しました」
赤ずきん「行きますのです!」
アテナ「ここの防衛には、防衛向きのシンデレラと回復のできるオーロラ、二人にお願いしよう」
シンデレラ「お任せを」
オーロラ「はぁーい」
アテナ「カミーロとライガはどうするの?」
カミーロ「俺たちは様子を見て臨機応変に動こうと思う、何が起こるか予想できないからな」
ライガ「ではいつでも出れらるように準備しとくか」
カミーロ「繰り返しになるが、くれぐれも戦うんじゃないぞ、手に負えない相手かもしれんからな。姿を確認したらすぐに戻ってくるように」
アテナ「ではみんな、あとで会いましょう、絶対無事に帰ってきて」
――――――エデン西方部にて。
アリス「コッペリア、悪魔はこのあたり?」
コッペリア「その小さい丘の向こう、一体の悪魔がいる」
丘の上からこっそりと覗くアリスーー。
アリス「いた、悪魔かな――あれ? 2体いるじゃない――」
?????「あらあら、誰かと思ったら、天界の騒がしい小娘じゃない」
アリス「げっ、見つかった! ってその声はまさか魔獪ミティシュジェリカ!?」
コッペリア「アリス、退却しよう」
ミティシュジェリカ「こっそり覗き見するなんて、相変わらず下品極まりないこと」
アリス「もう頭きた! あいつこの前も私たちのこと馬鹿にして!」
コッペリア「アリス、戦ったらダメって言われてる」
アリス「おのれミティシュジェリカ! この前は勝負がつかなかったけど今日は勝つ!」
アリス(あいつ、またあの奇妙な仮面をつけているのね)
コッペリア「ちょっとアリス」
ミティシュジェリカ「それはそれは、この舞台の上であなたの下品な演技を見るのもまた一興」
アリス「覚悟ー!」
コッペリア「もう」
魔獪ミティシュジェリカに向かっていくアリスとコッペリア、ミティシュジェリカの後方には青いドレスの少女が佇む。
コッペリア(あの女の子、この前もいたな――あの子は何なの)
猛然と突き進んでいくアリスの剣を軽々と跳びあがりかわすミティシュジェリカ、間髪入れずにコッペリアが大鎌を振りかざし叩き込む――肩を切り裂いたように見えたが、何事もなかったようにミティシュジェリカはハルバートを構える。
コッペリア(またこの前と同じ――攻撃が当たっているはずなのでまるで効果がない――)
アリス「もうーあいつどういう体してんのよ!」
コッペリア「アリス、来る」
ハルバートをバトンのように軽々と扱いながら左右から、上下からと巧みに攻撃を繰り出す。アリスとコッペリアは寸前のところでかわしながら、時折攻撃を返していく。
アリス(この前もそうだった、何発も完璧なタイミングで攻撃がヒットしてるのに――!)
アリス「あんたなんで倒れないのよー!」
ミティシュジェリカ「あなたは舞台での演技をするための正しい立ち居振る舞いが必要のようですね」
アリス「いちいちうるさいのよ!」
アリスのスイングした剣がミティシュジェリカの胸元を切り裂く。
アリス「やった!」
だが、ミティシュジェリカは攻撃を受けていないかのごとく易々と立ち上がり、再びハルバートを構える。
コッペリア「アリス、これは私たちが不利」
アリス「なんでよ、私たちが押してるじゃない!」
コッペリア「私たちは少しずつ小さい傷を負ってるけど、ミティシュジェリカには物理攻撃が全く効いていないように見える。長引けば長引くほどこっちが不利」
アリス「こいつダメージがないの!?」
コッペリア「アリス、扉の準備を」
アリス「え!?」
ハルバートで襲い掛かるミティシュジェリカに目もくれず、コッペリアは大鎌を振り下ろす。
コッペリア「スラッシュ!!!」
その場にいる誰もが予想できなかった、コッペリアは大鎌で荒野の地面に向かってスラッシュを放ったのだ。荒野の砂塵が勢いよく舞い上がる――。
ミティシュジェリカ「くっ――煙幕のつもり!?」
コッペリア「アリス、扉を!」
アリス「あ、わかった!」
砂塵が舞い降り、視界が開けてきたころには二人は既に姿を消していた。
ミティシュジェリカ「自ら舞台を降りるとは愚鈍な方たち――芸術を汚す輩にはお仕置きが必要のようね」
一方そのころ、エデン中央部――。
アテナ「ただいま、東部の北側の継承者は私たちが移動中にさらに東へ移動したようで距離が離れてしまったのでとりあえず帰ることにしたの」
赤ずきん「南側の継承者はかなり距離があったので今日は戻ることにしましたのです」
カミーロ「なるほど、アリスとコッペリアのほうはどうだった?」
アリス「あー悪魔がいたくらいかなあ、他には特になにもないけど!」
アテナ「アリス、あなた何か隠しているでしょう」
アリス「うっ、さすがアテナ様――」
コッペリア「アリスが悪魔を見つけて突撃した」
アリス「ちょっとー突撃とは何よー」
カミーロ「なんだ、戦ったのか、確認するだけと言っただろう」
アリス「だってあいつだったのよ! ミティシュジェリカ!! この前も悪魔界の名門とかいってさんざん私たちのことを馬鹿にして!」
カミーロ「悪魔界の名門か――で、倒せたのか?」
アリス「それが攻撃がぜんぜん効果ないのよ! かなり攻撃してたのに!」
シンデレラ「攻撃が当たらないってこと?」
アリス「いやそうじゃない、当たってるのに平然としてるの」
カミーロ「当たってるのに効果がない? どういうことだ?」
アリス「それはこっちが聞きたいことよ、とにかく物理攻撃が当たっても平然としているの!」
コッペリア「私とアリスで間違いなく何発も完璧な攻撃がヒットしている」
カミーロ「なんだそれは、鎧でも着ているのか?」
コッペリア「着ているのは普通の服だけ」
アリス「きっとあいつ、HPゴリラなのよ! 思い出すだけでも腹立つ」
オーロラ「なんだか、この前のベリトみたいですわね」
白雪姫「でも西から継承呪法の反応はなかったはずだからベリトの時とは違うケースでしょうか」
アテナ「他に何か特別なことはなかった?」
アリス「いつもの仮面をつけている以外に特になかったと思うけど――あ、そういえば、前回も今回も後ろのほうに青いドレスの少女が立ってた」
アテナ「その少女がミティシュジェリカを回復してるってことはないの?」
アリス「それはないかな、回復魔法を使えば放出光だったり、何か視覚的に気づくと思うし」
アテナ「コッペリアはどう?」
コッペリア「2人いるけど、感知できたのは1人だけだった」
アテナ「その少女は悪魔じゃないってこと?」
コッペリア「わからない、ベリトのように上級悪魔で魔力を隠せるという可能性もある」
アテナ「上級悪魔ね、でもそれほど強いならその少女も一緒に戦っていそうだけど――」
カミーロ「ここまでの情報だけだと判断しかねるが――絶界の中にいるのは少し厄介だな――」
少し考えた後、顔を上げて促すようにカミーロは伝える。
カミーロ「よし、西側は作戦を変更しよう、ひとまずミティシュジェリカを叩く。今後の障害になるかる可能性もある」
アテナ「でも物理攻撃が効果がないようならどうやって?」
カミーロ「武器を変更しよう、まずはコッペリア」
カミーロは本の中に腕を滑り込ませる――まばゆい光と共に一つの大鎌を引き抜く。
カミーロ「これは銀の大鎌だ。銀は下位の吸血鬼、狼男、シェイプシフター等に効果がある。ミティシュジェリカがどのような悪魔か正体がつかめないが、念のため銀製の武器を持っていけ」
コッペリア「わかった」

カミーロ「アリスはこれだ、ガラスの剣だ」
アリス「ガラス!? なにその剣」
カミーロ「この剣はガラスでできていて、伝説の剣なみの切れ味がある。ただし、一度使うと粉々に砕けるだろう。だから鞘に入れ、振るうべく一瞬が訪れるまで、その時を待つんだ」
アリス「え、じゃあそれまでは一切攻撃ができないってこと?」
カミーロ「そうだ、それまではコッペリアに任せるんだ。君が攻撃する時は鞘から剣を抜く一度だけだ。それまでは鞘から絶対に出すんじゃないぞ、岩にぶつけるだけでも割れるからな」
アリス「なんだか責任重大な役目ね――私そういうの苦手なんだけどな。ねえ、これ鞘から出してみてもいい?」
カミーロ「構わないががぶつけるなよ、ここで割れたら洒落にもならんぞ」
アリス「わかってるって、わあすごいきれいな剣、刀身が宝石みたい――透き通っていて美術品になりそう」
どんっ、その時アリスに誰かがぶつかったのだった。
アリス「わっ! わっ!」
ライガ「なんだお前、道の真ん中で突っ立ってるんじゃねえよ、邪魔だな」
アリス「ライガ―! 落としたらどうするのよ!」
ライガ「へっ、お前が銅像みたいにそんなところに突っ立ってるのが悪いんだよ、銅像か、お前は」
アリス「…………おのれーライガー! 斬る!」
カミーロ「待て、アリス! 早まるな!」
コッペリア「アリス、剣が砕ける」
アリス「かくごー!!!!」
ライガ「ひええええええ!!!!!!」
次の日の夜半――――。
カミーロ(物理攻撃が効果がないというのはいささか気になるな――どんな強者であってもまともに食らえば多少はダメージが残るはず――)
カミーロ「今夜は俺も行ってみるか――ライガ、出かけてくる、留守中の防衛は頼むぞ」
ライガ「おう、まかせてくれ」
オーロラ「道中お気をつけて」
ミティシュジェリカ「あらあら、誰かと思ったらこの前舞台から降りた愚劣な方々じゃない」
アリス(あの青いドレスの少女は今日もいるようね――でもまずは目の前のミティシュジェリカに集中しよう――)
アリス「今日はこの前とは違う、今日は絶対勝つ!」
コッペリア「アリス、あなたは下がって、まずは私が」
アリス「わかってる」
そのころ、丘の上に到着したの速足でかけつけたカミーロ。丘の上から見下ろすようにそこにはアリスとコッペリア。
カミーロ「仮面をつけている方がミティシュジェリカ、そしてもう一人の青い少女か――」
コッペリア「行ってくる」
コッペリアが銀の大鎌をもって飛び出す、対するはハルバートを振りかざすミティシュジェリカ。
カミーロ「コッペリアとミティシュジェリカ、実力は拮抗していそうだが――」
カミーロの目にも見えていた、時には服を切り裂き、時には直撃しているのだが、ミティシュジェリカはすぐに立ち上がり、まるで条件反射のように立ち向かってくる。
コッペリア(ダメ、銀でも効果がない――)
アリス(ほんとにあいつ、どういう体してんのよ――)
カミーロ「攻撃に効果がない分、コッペリアは不利だな。いずれ小さい傷が増えてくれば致命傷の一撃を食らい、コッペリアの敗北が決まる――」
カミーロ(あのミティシュジェリカ、戦闘中に魔力は消耗しないのか――? 魔力の消費が全く感じられない――)
コッペリア「アリス、月が見える位置に移動を」
アリス「よくわからないけど了解」
カミーロ(ミティシュジェリカは錬身化もせずに戦っているというのか――魔力も全く消費せずにあれほどの動きができるものなのか――?)
ミティシュジェリカの大型ハルバートのスイングをかわしながら移動していくコッペリア、戦闘が始まってしばしの時間が経過し、だいぶ息もあがってきている。
コッペリア(こいつ無限のスタミナなの――)
走りながら岩を跳び越え、荒野を走る、また走る。が、アリスの正面に跳び下りてきたあたりで膝をついて倒れてしまう。
アリス(コッペリア! まさか体力の限界――!?)
ミティシュジェリカ「すばしっこいねずみめ、死になさい」
カミーロ(なんだ――今のは――気のせいか――??)
コッペリアの背後から串刺しにせんとするミティシュジェリカ。
コッペリア(かかった)
コッペリア「スラッシュ!!!」
荒野の大地に向かってスラッシュを放つ、大量の砂塵が舞い上がり、あたりを茶色一面に染めていく。
ミティシュジェリカ「またそれ! 今さら時間稼ぎなどしてどうするのかしら、砂が落ち着いた時、あなたが串刺しになる時よ!」
アリス(ああ、そういうことか、わかったよ、コッペリア。なぜ月の見える位置に移動させたのかが)
ミティシュジェリカは苦し紛れに舞う砂塵の中でハルバートをぶんぶんと振り回している。
アリス(あなたのほうから私は見えないでしょうね、砂塵の中なのだから。でも、私からははっきり見える、月の明かりに照らされて砂塵の中にいるあなたのシルエットが、まるで影絵のようにね……!)

アリスが動き出しコッペリアの前に走り出る、剣の柄に手をかけた、その一瞬を振るうために。
アリス(ずっと待っていた、その一瞬が来た――)
アリス「硝子の剣クリティカル!!!」
第3話「最強の敵」のシール一覧 | |||
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